読書紹介1Tunr(北村薫)

2001/01/19
 
Turn(ターン) 北村薫 新潮社 1900円(文庫版も出ていたような??)
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 作者の「時と人」三部作の、「Skip」に続く第二弾。 第三弾の「リセット」が発売になったようなので、どんなんだったかな〜という意味で書いてみました。ま、紹介です。ちなみに、三部作とはいっても、テーマが統一されているだけで、内容に関して厳密なつながりはありません。全部違う場所、異なる登場人物でのお話。

 主人公の女性は版画をつくる仕事をしている人で、事故をきっかけに、ココとは異なった世界に行ってしまう。その世界は、見た目、現実の世界と変わりなく、しかし存在している命あるものは彼女一人だけだった。夏なのに夜でも虫の声が無く、すべてが今その瞬間まで、まるでそこに人がいたかのような状況で……。しかも、その日は永遠に繰り返されるのだ。事故の起きた日のその時間がくると、何をやっていても自分は元の時間に戻ってしまう。自分だけではなく、与えた変化がすべて、その時間のその状態に戻されるのだ。ただし、記憶だけは受け継がれて……。
 主人公には声が聞こえる。小さいころから、ずっと側にいて話しかけてくれていた声。時には意見に耳を傾け、助言になり、新しい視点をもくれる……
 一人芝居みたいなものなのかもしれないけど、この声に支えられ、彼女はこの特殊な世界、孤独の中で、自分のできることをしようと考えていく。へそくりの大枚をはたいてみたり(もちろん店員なんかいないし、次の日には、もとどおりへそくり隠し場所に戻ってくる。その上、買ったものさえお店に戻っていってしまうのだけれど)、出来立て状態のスパゲティを食事したり。一日一日をしっかり生きよう。
 しかし、100日以上もたち、すべてが元どおりに戻ってしまう世界で、何をやっても1日後には元に戻ってしまうということに、結果として何も残すことができないということに、やがて何もやる気がしなくなり、感情が抜け落ちそうになる……。
 ある花を見てひさびさに感情が芽生えた。
 庭に雨を降らそう、そう思った。水をまく。かわいらしい小さな雨。100日以上ぶりの。
 そんなときだった。誰もいないはずの世界で、一本の電話がかかってきたのは!
 果たして、その電話の正体は?
 そして、擦り切れていく彼女心はいったいどうなってしまうのだろう?!

 ここから先はハイパーネタばれショック。
 あとでこの本を読むことがあっても、チクショーKeiめぇ呪ってやるぅ〜!と言わない方は読んでもいいけど、できるなら未読の方はご遠慮ください。(^^;







 さて現実の世界では一人のイラストレーターが、彼女の版画の作品に心惹かれていた。仕事を依頼したくて、やっと知った彼女の電話番号をダイアルする。
 電話先に出た彼女は、なぜかとても必死な様子で、しかし、何から喋っていいかわからないようだ。
 え、ここと違う世界? 夏? 何言ってるのさ、今は秋も終わろうとしてるじゃないか。初冬と言ってもいい。え、この電話はこのままにもう一度別の電話で家に電話しろって?いいじゃないか、やってみるよ。あれ、ちゃんとかかるな、誰も出ないけど……?本当なら、話し中になるはずだぜ?確かめてみるか……
 イラストレーターの彼は、彼女と繋がった電話はそのままに、不思議なひっかかりから彼女の家を訪れる。
 誰も出てこない……手の込んだいたずらだろうか?近所の人に聞いてみようか?こちらのお嬢さんですが……。え?事故?入院?意識が戻らないって?? あわてて病院に駆けつける彼。そして、彼女、版画家の真紀さんは、病院のベッドで植物人間状態で寝ていたのだ……。
 彼女の病室で彼は彼女の母親にであう。彼は母親を自分の仕事場まで連れていき、真紀と繋がっているはずの電話に出させる。と、「何も聞こえないのですけど」……そんなはずは!?
 どうやら、不思議なことにこの電話で会話できるのは、彼ら当人だけらしかった。彼女しか知り得ない内容を、電話から聞き出した彼は、それを母親に伝えて、やっと信用される。彼は、彼女と母親の通訳をかってでる。そこから、奇妙な生活と奇妙な連帯感が生まれて……。

 いつまでも繋がったままの電話のやりとり。やがて彼は彼女の、彼女は彼のことについて興味を持つ……。そして彼女は気付くのだ。二人の会話の中の、彼の感性にどこかで会ったことに。そう、それは彼女が小さい頃から会話している自分の中の不思議な声と同じものだったのだ……。
 二人の気持ちが重なるころ、現実世界の病院の彼女の体にも良い兆候があらわれてきた。この分なら、そのうち、意識が戻るでしょう。
 しかし、そこからまた苦悩が生まれる。そうなったら?もし目覚めることができれば、自分はもとの世界に戻れるのだろうか?それとも、向こうはこちらの記憶なんか持っていないまま、勝手に目覚めるのだろうか?二重存在?
 そうしたら、そう、黙って電話を切るのだ。
 自分は一生この世界に残ることになっても、彼の記憶があればやっていけるだろう、と。しかし孤独の世界にも変化があらわれる。一台の車が猛スピードでつっぱしっていったのだ。そう、この世界にも、他に誰かがいたのだ!しかし、喜びは長くは続かない。車を乗り回していた男と会えたがしかし、彼はどうにもうさんくさい。電話の向こうで調べてもらったところ、幼児を連れまわして、あげくに轢き殺したという犯罪者ということがわかった。
 恐怖。一日がたつと、すべてが元に戻っているとは言っても、その一瞬の恐怖が軽減されるわけではないのだ。
 ついに、その男に、一日たつと元に戻る場所を突き止められてしまう。ある日、いつものように目覚めると、そこに男の姿があった。彼は言う、そんな電話何も聞こえない。あんたが孤独の寂しさを紛らわすために生み出した想像の産物だろう?、と。
 そうじゃない!彼女は切り替えすが、では、どうして俺には聞こえない?どうやってここにかかってきた?どうして都合良く話しがすすむのさ?俺のこと犯罪者っていうけど、他には?他にどんなことがわかるって言うのさ?
 それじゃあ、それを突きつけてあげる!
 が、その細い、一本の、つなぎっぱなしにされた電話は、現実世界において、彼の家に来ていたお客の、いらぬ気遣いによって……かちゃ……つーつーつー。
 ほらみろ、都合がわるくなったら、こんどは切れてしまったことにして、意識的にしろ無意識にしろ自己防衛しているのさ。そんな電話は最初から通じてなかったんだよ!
 そんなことない!
 犯罪者って言ったよな、どういうことしたのか教えてやろうか?
 恐怖。そして絶望?
 他に誰も助けてくれることもない世界で、彼女の運命は?はたして無事に生還なるのだろうか?
 乞うご期待!! (^^;


この文章は、私の独りよがりな解釈のものに成り立っており、実際読まれた方の印象とは異なる可能性があることをご了承ください。
 

[Return to Top] 文責:Kei